上海、光と影―――旅が残したものをふと思い返してみて

 上海が自分の中に残したものを、ふと。一言でいえば、光と影。あれは20歳のとき、ひょんなことから旅で向かった先は、上海。

 運良く、世界一の高層ホテル、グランド・ハイアット・シャンハイに泊まる機会を得た。日が暮れて、視界を霞ませる、窓にまとわりつく雲も晴れた。さぁ、と意気込み下を眺める―――驚くほど感動の無い平坦な眺め。上海はそれほど高層ビルが多くない。高いところに行けば、景色が美しき化粧をまとうわけじゃない、このとき痛感した。部屋が高すぎて、ネオンは遥か遥かに下で、ぼやけているんですよ。超近代的なそのホテル。でも、街は、そのホテルについてきていない。とても目立つ一部の豪華さと、普通にただずむ残りの大多数。―――上海、光と影。

grand_hyatt_hotel.jpg

 上海の街を歩き回った。とにかく汗がしたたった。繁華街で目にした吉野家と、路上の売店から聞こえる浜崎あゆみの歌はいくらか興ざめを誘ったけれど、たしかに新鮮だった。あまりに暑い。別のホテルに入り、体を涼ます。コーヒーを飲む。一杯、600円。

 もう夕方だ。おなかが、「俺にも気づけよ」と存在を主張しているのを感じ、夕食を取ることにする。懐の寒さ、無理をしすぎたようだ。なんとか安く済まそう、と一般庶民向けの食堂を探す。すごく汚かったけれど、たらふく食べて、100円にも満たない。その店は、コーヒーを飲んだホテルのすぐ裏にあった。わずか100mで、この物価の落差。あまりに違和感なくひとつに溶け込む、前近代的な感じと、超近代的な感じ。コンクリートの冷たさと、土の臭さ暖かさが、ひとつになって上海を包み込む。―――上海、光と影。

 たしかに本場の小龍包は、あつい肉汁で舌をやけどしたが、それも含めてうまかった。日本人が求める「中国的なもの」は、観光産業によって見事に保護されていて、心はそれなりに満たされた。でも、一番ホットな体験は何だったか?と振り返ると、その安食堂でいろんな人と触れ合い互いの存在を交わしたことだった気がする。さあ、ここで光と影が逆転したのかもしれない。―――上海、光と影。

#中国が生き残りのために経てきた市場化/資本主義化の流れ。そしてその流れの中で、それに影響を受けつつも、どことなく残ってきた昔からの生活の営み。その両者の奇妙な融合と不思議な一体感が、中国の都市の独特な魅力であるように感じる。人口の多さという途方も無い物量的武器をもとに、光と影の溶け合った中国は、世界を黄砂のごとく包み込んでゆくのだろう。―――そう、黄砂の黄土色は光を乱反射するものであると同時に、光を覆い隠す影でもあるのだ。

※写真はHISより拝借


Posted by gen at February 10, 2004 01:27 AM | TrackBack(0)
Comments

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上海、まだ足を踏み入れたことはないけれど、人生に一度は訪れてみたい所ですね。
光と影、なんだか香港も似た様なもの持っている気がします。

Posted by: kaleidolile at February 11, 2004 08:37 AM

そうですね。言われてみれば、たしかに似た様なものを持ってる感じですね。でも、香港は上海よりも猥雑な感じ(沢木耕太郎『深夜特急』より)が強いような気がします。たとえるならば、雑貨屋兼本屋のヴィレッジヴァンガードみたいな。それに対して、上海はどことなく統制されている感じがする。

もっとも、香港を訪れたのは返還前なので、今はどうなのかは全くわかりませんが‥。

Posted by: Gen at February 12, 2004 11:00 PM
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