人間は性善なのか、あるいは性悪なのか、かくも結論無き問題が長々と語られてきた。この問題を人間のnatureとして考え、科学の名を騙るならば、進化論から考察するのが妥当だろう。さて、あなたはどちらが正しいと考えていますか?
あるユートピアを想像して欲しい。そこは食べ物があふれ、異性に事欠くことなき世界だ。あなたはそれでも隣人を殺すだろうか?あるいは騙したり、攻撃するだろうか?他者に食べ物を分け与えるだろうか?――何もしないだろう。無関心なはずだ。進化の標準は、「無関心」なのである。
進化論への標準的な見方は、それぞれの個体が血みどろの争いに明け暮れている姿だ。二匹を箱の中に入れたら、すぐさま争いが勃発するという、なんとも野蛮なイメージをあなたは抱いているだろう。しかし、そんなことはない。進化的にデフォルト・スタンダードは、繰り返すが、他の個体への無関心(中立)である。「無視」が最適な戦略だ。
もしも何かの利害対立があるのならば、彼(女)らは重い腰を上げるだろうが、そうでないときには、何をするにもコストがかかる。意地悪であるにも、親切であるにも、コストが生じる。そして、生命体は、できるかぎりコストをかけずに暮らせるよう進化してきた。
イメージとしては、通勤電車の乗客が正しい。なぜあなたはわざわざ目の前の小僧を殴らなくてはならないのだろう。あるいは見知らぬ他人と会話を交わさねばならないのだろう。通勤電車の光景は、現代に特有の社会的病理ではない。あれは生命体のnatureを的確に示している。変な社会評論に騙されるな。
ポイントを整理しておこう。1.生命体のnatureとしては、ひたすら無関心が標準である。弱肉強食のイメージは正しくない。2.争いが起きるとすれば、それは環境側の資源が不十分で、それをめぐって相争わねば個体が生き延びられないからだ。つまり、性悪さの誘因は人間の側にあるのではなく、環境側にある。3.一方、性善さは、他の個体と協力することによって自分が利益を得ることができる状況が多々あることによって、あるいは道徳性の強い人間は異性にモテるという理由から、育まれてきた。
もちろん進化のスタンダードが無関心であるからといって、「他者を無関心に扱うのがよい」と主張するわけではない。犯罪行為を見て見ぬふりすることは、あなたがその犯罪の加担者になるということだ。無関心は時に罪となる。あるいは、『夜と霧』V.フランクルの理性的態度は例外的だが、彼から何かしらの示唆を受けるのは至極まっとうであろう。進化論への根本的な誤解の問題と絡むのだが、進化的にnatureが○○だと描いたからといって、それが肯定されることにはならない。その上にどのような他者を救う制度ないし道徳を築くのかは、純粋に人間に突きつけられた課題である。キリスト教はひとつの解答だが、全員に対し有効な道徳養成装置となっているわけではない。
強調したいのは以下の点だ。このような人間価値の問題を人間の本性の問題として語るな。わたしたちが注視すべきは、第一に「性悪に振る舞わざるをえない状況を生み出している社会環境要因を特定し改善すること」であり、第二に「無関心が標準の人間が、どのような道徳ないし他者への関心あるいは社会的救済制度を育んでいけるのか」ということだ。それは哲学思想の問題でもあるし、社会が(暗黙裏に)期待する人間性の問題でもある。そしてどのように教育すれば良いのかという根源的問いかけでもある。つまり、わたしたちが己の手で築き上げねばならないものだということだ。
悲惨な出来事を前にして「人間は性悪か、あるいは性善か」などという答えの出ない問いにうつつを抜かすのは、思考停止の、怠慢に過ぎない。わたしたちが第一にまなざすべきは、具体的現実的な状況なのであり、そこに己の手で何を築くのかという問題なのである。
前からぼんやり思っていたことですが、人間って一番恐れているのが「退屈」であるような気がしています。事足りるから争わないと言うわけでもないような・・と感じるのは常に何かに気を取られていたい、よろこびでも悲しみでも何でも良い、波が必ずどこかの岸に打ち寄せられるように何かの感情にとらわれていたい欲求が無意識にあるような気がしてならないのです。復讐、恩義、動機はなんでも良いような。
文中でおっしゃる「無視」はミサイルより恐ろしい武器であると思います。
趣旨とずれていて恐縮ですが・・
面白い。
久しぶりに覗いてみたが、相変わらず面白い論点で書いているじゃないか。
進化と満足の先にあるのは無関心というのは理解できる話だなぁ。今まで気づかなかったけれど。
自分を省みても、人に文句もないし、「大人」な人間かなと思ってきたけれど、いざ就活などで自己分析などしてみると、やりたいこともない、他人に関心も無い、つまらない人間じゃないかと、今焦っている。
どこで間違えたんだろうかと風呂に入りながらよく考えていたが、その解答のヒントを得られた気がするよ。
何もしなくてもそれなりに満足の行く日常に浸っちゃってるんだなぁ。俺にもう少し好奇心が旺盛ならば、この小さな世界をぶち壊して、足りない点を貪欲に見つけ出せて、もっとエネルギッシュで躍動感のある、時に暑苦しい「いいおとこ」になれるんじゃないかな。
よーし頑張るべ。
また飲もう。
GREEありがとうな。
今度書いとく(笑)
***→